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大阪高等裁判所 昭和35年(く)22号 決定 1960年5月31日

少年 N(昭二〇・一・二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、原決定は少年の性格矯正にのみとらわれ、少年の環境の調整を失念した不当な保護処分であるといい、本少年の非行の最大原因は年長不良少年が在学している○○中学校に入学し、これら不良中学生と交遊関係を持つたことにあるのであるから、原裁判所は少年法第二四条第二項に基いて少年の非行の温床である、右中学校から他に転校させるなどの措置を少年保護委員会又は右中学校長をしてとらしめるのが相当であると考えられる。しかるに原裁判所はこの措置をとらずに右中学校長、担任教師を信じ、再び非行の温床である同中学校に通学することを少年に期待し帰宅せしめたため、当日原決定認定の第四の非行に陥れたもので、原裁判所が自ら環境調整の措置をとらなかつたことを度外視して、右非行を少年の反省心の不足であると断じて、少年にのみ責任を負わせたことは著しく不相当な保護処分で取消さるべきである。ところで一方少年院の現状においては年長非行少年の感化を受ける危険があり、又少年を自暴自棄に陥れる虞れがあるので、少年の実母○○喜○子は夫(少年の義父)○○正○と共に少年を膝下に置き、愛情をもつて少年の更生を図り、指導監督することを決意し、環境の調整を期し、新に大阪市立○中学校近くの夫の営業所に接続するアパートに部屋を借り非行の温床である○○中学校及び旧住居周辺の不良交遊を断ち、常に少年を指導監督できる環境を整え、又生活も夫の収入によつて充分賄い得るよう準備し、従来欠けていた家庭の保護能力を備えるに至つた。かく環境の調整がなされた以上、在宅保護処分が相当であると考え本件抗告に及んだというのである。

よつて記録を精査し案ずるに、本少年の非行の原因はなるほど○○中学校における不良交遊にあるが、しかし、その不良交遊をなすに至つた原因は、両親において、少年の指導監督に留意せず、義父は自己の営業所に宿泊し、実母は料理店の仲居をして夜遅く帰宅し、或は外泊して、他に補導する者もなく、少年を放任し、家庭内の団欒の機会は勿論なく、愛情に欠くるところがあつたためであり、両親もこれを認めて、環境の調整をはかることを決意し、少年は原裁判所の審判廷において担任教官列席の上、今後真面目に通学し不良交遊を断つ旨誓つたので、昭和三五年二月二二日原裁判所が家庭、学校、裁判所三者協力して少年の更生を図り又期待して、在宅試験観察に付したたにもかかわらず、反省自覚することなく直ちに前記第四の非行を敢行して、その儘登校せず、不良交遊を続けたことが明らかであり、(なお所論は原裁判所が同裁判所調査官の観察、いわゆる試験観察に付する際、少年法第二四条第二項による環境調整に関する措置をとらなかつたことを非難するようであるが、右調査官の観察に付する決定は同法第二五条に基き、同法第二四条第一項の保護処分を決定するため、すなわち、同条項所定の如何なる保護処分を選択すべきか或は保護処分の要否等を決するためになされた措置であつて、同法第二四条第二項は同条第一項の保護処分決定をした上での措置であるから右非難は当らない。)その他本件非行の態様、回数、少年の性格、家庭の状況及び保護能力など記録に現われた諸般の情状に徴すると、所論の事由を参酌しても、本少年に対してはも早や在宅保護によつては到底その更生を期待することはできない。従つて原決定のとつた初等少年院送致の措置は相当であつて、本件抗告は理由がない。

よつて少年法第三三条第一項少年審判規則第五〇条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 山本武 判事 三木良雄 判事 古川実)

(別紙) 原審の保護処分決定

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

一 非行事実

少年は

第一 、○○道○と共謀して、昭和三五年一月一〇日午後一一時過頃大阪市北区○○町○○○番地○○電設○○○工場内ボイラー室前空地において、同工場長○本○太○管理にかかる裸銅線二〇瓩位ほか二点(時価五、二〇〇円相当)を窃取し

第二 、○○道○と共に同年同月一九日午後三時三〇分頃同市此花区○○○町○○○番地○○中学校において、同校教官に叱責されたことに激昂し棒切及び犬の鎖等で共同して多衆の威力を以て同校々長○原○夫が管理する同校旧館校舎三年一〇組、一一組、二年七組、八組の各教室及び便所等の窓ガラスを次ぎ次ぎに六一枚を破壊し、以て公共の用に供する器物を損壊し

第三 、○○道○と共に同年同月二〇日午後一時頃前記○○中学校において、同日ガラスを破壊したことを謝罪に赴いたにも拘らず警察に電話したと激昂し共同して多衆の威力を以て同校々長○原○夫が管理する同校新館校舎一階二年一組、二組、三階二年五組、六組各教室の窓ガラスを次ぎ次ぎに一九枚を破壊し以て公共の用に供する器物を損壊し

第四 、○国○と共謀し同年二月二二日午後八時三〇分頃同市此花区○○町○丁目○○番地先堤防上において通行中の中学生○永○雄(当一四年)に対し、些細なことに因縁をつけ、手拳をもつて同人の顔面を殴打して暴行を加え

第五 、○○秀○、○岡○、○国○と共同して同年一月二五日午前一〇時頃同市此花区○○○町○○○番地前記○○中学校校庭において、同校二年生○矢○(当一四年)に対し些細なことに言いがかりをつけて手拳で殴打したうえ、更に同人を同校北側の同区○○○○町○○番地先路地内に連れ出し、同人を取囲み手拳、下駄等で顔面その他を殴打し或は蹴る等して暴行を加えよつて同人に対し、左顔面打撲による治療一週間を要する傷害を与え

たものである。

なお昭和三五年少第二〇一〇号虞犯保護事件については、同時頃暴行事件(同年少第二八一二号暴行保護事件)があつたことが明らかとなつたので特に虞犯事件としては認定しない。

二 法令の適用

前記第一の所為は刑法第二三五条、第六〇条に第二、第三の所為は暴力行為等処罰に関する法律第一条、刑法第六〇条に、第四の所為は刑法第二〇八条、第六〇条に、第五の所為は同法第二〇四条、第六〇条に各該当する。

三 処遇について

少年の性格、経歴、家庭環境等についての詳細は調査票、鑑別結果通知書記載のとおりである。

少年は資質的に知能面では比較的恵まれているが、幼少時より不遇な環境に育てられたため性格的にはかなり歪められており、且つ中学二年生になつた頃より怠学、不良交遊が始まり学校内外における窃盗、暴行等の非行が瀕発するようになり、現在においてはその非行性は相当昂進しているものと思われる。

少年の怠学が始まつた頃より中学校においても保護者と連絡をとりながら少年の補導に手を尽したがその効果もなく昨年(昭和三四年)秋頃から益々不良化の一途を辿り、遂に本件第一乃至第三及び第五の事件を惹起し、当裁判所に係属するに至つた。

そこで当裁判所は調査、審判の結果、少年が中学校に在学しているものであること、従来の家庭における看護が極めて不十分であつたこと、並びに少年の学校に対する信頼感、親和感に欠けることがあつたことその他の事情を考慮し、審判廷に特に中学校の教頭担任教官の列席を求め、少年自身の反省、自覚を求めると共に家庭、学校、裁判所が協力して少年の更生を図り、その経過を見たうえ終局決定をすることが相当であると考え、在宅試験観察に付して昭和三五年二月二二日帰宅せしめた。

ところが少年はその当夜既に本件第四の事件を敢行したばかりでなく、以来一回の登校もせず、殆ど家出同様の状態で(夕食に時々帰宅するが母親は不在)あり従前の不良友達との関係を継続して来たので少年に反省心、更生意欲は全く認められない。

叙上のとおりであつて少年の性格、非行性、家庭の保護能力その他諸般の事情を綜合すると、現状においてはも早や在宅保護による更生は期待出来ないので、本件については少年を少年院に収容し規律ある生活のもとで性格の矯正を図ることが相当であると認め、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項少年院法第二条第二項を適用して主文のとおり決定する。

(昭和三五年三月二三日 裁判官 野曾原秀尚)

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